診療料金についての考え方

獣医療(動物病院の診療料金)を高く感じるか、それとも安いと思うのか,それは動物の生命に対する価値観と人の医療費との比較が避けて通れません。

ペットよりコンパニオン・アニマル(伴侶動物)。今や身近な動物達は、物質文明が極期を越え、成熟には至らず、悪臭の漂い始めた昨今の世相にあって、生活の友として、また我が子同然の存在として、現代人の心を癒す、無くては成らない存在となっており、このことは政府機関の調査でも、科学的に証明されています。

人の医療費は、先進国でもまれなる国民皆保険制度(アメリカにも無い)に加え、老人や高額医療に対する特別措置さらには介護保険など、保険というよりは、社会保障と表現した方が適切と思われるほどです。

このような至れり尽くせりの制度下では、個人レベルでの実質負担に関して、正しく認識している人は極めて少ないと思います。人の医療費がどれだけ高額であるかは、一度自費診療を受けてみるのが、最も解りやすいでしょう。

人と動物の医療費の比較は、人が保険料として直接支払った金額と、動物病院の窓口で支払ったものを、単純に比べてはいないでしょうか。

上述したように、人の健康保険は、保険というよりは社会保障です。国、自治体、企業、団体などなどの膨大な負担金、個人の掛け金はほんの一部を負担しているに過ぎません。

家族同然となった伴侶動物の、医療に対する飼い主さんのニーズは、人と概ね同様の水準を求
める傾向が、近年急増しています。そして、それに応え日本の獣医学のレベルもずいぶん向上しました。しかしながら、ここに我々臨床家の悩みがあります。それは、高度医療には、人件費、医療機器、薬品など、とてもコストが掛かるということです。

人の高度医療では、月に1000万円を越える医療費も珍しくありません(10年ほど前の大阪大学救命センター調べ)。このようなことが可能なのは、高額医療公費丸抱え制度があるからです。月100万を超える医療費を、自費で支払える人は、今の日本に何人いるのでしょうか。

しかし飼い主さんは、人の医療料金システムを十分に理解しないまま、感覚的には高度医療を獣医師に求めます。

コストの掛かる高度医療と、一般医療を混在させることは、学問的にも、また経済的にも無理があります。しかし十二分な補助なくして、高度医療を独立させることは不可能です。ですから、教育予算等を注入できる一部の獣医科大学を除いては、獣医学臨床では独立した総合的な高度医療機関はありません。現実の問題としては、個々の開業医が、連携を持ちながら、得意な分野の知識や設備を持ち寄り、経済性を時に度外視して、高度医療に対応してます。

よく獣医さんの料金は 病院による価格差が大きく、掛かる方にとっての、一番の不安材料なので、基準料金があるといいな、というご意見を聞きます。

それは我々にとっても一番望むことなのですが、現行の独禁法では、それはヤミ・カルテルになるのだそうです。

独禁法の立法の精神は「消費者保護」です。自由診療において高すぎることは論外ですが、安
すぎることはもっと危険です。それは「やるべきことが、やられていない」からです。

消費者保護の最も具体的な対応としては、やはり合理的な「獣医療基準料金」の設定です。獣
医師だけではエゴになるなら、公正を期し、部外の有識者に参加していただいて結構だと思います。ただし知識・技術、設備、スタッフ数などの差異により、許容される範囲での幅をもたせることは必要です。(独禁法では、存在する料金表を例示することは、規制していませんの、例示も1つの方法です)

保険業法に基づく正規の小動物健康保険は、現存しませんが、民間の共済制度は2~3あり、今後健全に発展すれば、飼い主さんや獣医師にとっても、十分に有用なものになる可能性があります。(但しこの手の共済は、過去80程出現し、雲散霧消していますので、まじめな発想と思えるものは、育てるという感覚が必要でしょう)。

終わりに一言。
医療費概算は遠慮なく尋ねてください。
入院等が長引く場合いは、一週間毎に清算をしましょう。

そして飼い主として、どこまでの医療を望むのか明確に意思表示して下さい。